「美術館はいいなあ」がNGな理由とは?『演劇入門』に学ぶリアルなセリフの作り方
脚本や戯曲を書いていると、こんな悩みに直面したことはありませんか?
- 「このセリフ、なんだか不自然だな…」
- 「説明的すぎて、リアリティがない」
- 「でも、観客に状況を伝えないといけないし…」
創作者なら誰しも、この葛藤を抱えたことがあるかと思います。自然な会話を書きたい。でも、物語を進めるための情報も盛り込まなければならない。この二つの要求はどう両立させればいいのでしょうか?
その答えが、平田オリザ氏の名著『演劇入門』に詰まっていました。この本は、演劇におけるリアルなセリフとは何か、そしてどうすればセリフがリアルになるのか、その思考プロセスを丁寧に解説してくれる一冊です。
「あぁ、美術館はいいなあ」—これがダメなセリフの典型例
平田氏は本書の中で、ダメなセリフの例として、こんなシーンを挙げています。
舞台設定:美術館
主人公が入ってきて言う:
「あぁ、美術館はいいなあ」
このセリフを見て、違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。確かに、リアルな日常会話で、美術館に入ってきた人が「あぁ、美術館はいいなあ」なんて言うことはまずありません。
これは極端な例と思われるかもしれないですが、実はそうでもないそうです。本書では、高校演劇で生徒が創った作品はこのようなセリフのオンパレードになっているといいます。
ただ、劇作家の立場に立つと、このようなセリフがでてしまうのには切実な理由があります。観客に「ここが美術館である」ことを早い段階で知らせる必要があるためです。それも、舞台美術などの力を借りずに、セリフだけで。
この矛盾—リアルさと情報伝達の両立—をどう解決すればいいのか。『演劇入門』は、この問いに答えてくれます。
『演劇入門』が教えてくれる、自然なセリフを生み出す思考プロセス
この本の最大の魅力は、単に「良いセリフ」の例を示すだけでなく、どうすれば自然なセリフを作ることができるのか、その思考プロセスそのものを丁寧に解説している点にあります。
例えば、先ほどの美術館のシーン。平田氏は、セリフを自然にするための技法を提示してくれています。
この本を読むと得られるもの:
- ✓説明的にならずに状況を伝える技術
- ✓自然な会話の作り方
- ✓観客を物語に引き込むセリフ術
- ✓「リアル」と「演劇的効果」を両立させる思考法
これらの技術は、演劇だけでなく、映画脚本、ドラマ脚本、さらには小説や漫画のセリフ作りにも応用できます。平田氏自身も前書きで、「演劇を実際につくる人以外にも、世界や人間について多くの発見ができる」と自負しているように、創作に関わるすべての人にとって価値のある内容だと思います。
『演劇入門』の3つの魅力
1. 戯曲を書くという視点から演劇をとらえた実践的な入門書
多くの演劇の本が「観る」「演じる」視点で書かれているのに対し、この本は「書く」視点に立っています。だからこそ、脚本家や創作者にとって直接的に役立つノウハウが詰まっているのです。
2. 実際の舞台の例が豊富でわかりやすい
抽象的な理論だけでなく、実際の舞台作品を例に挙げながら解説されているため、具体的なイメージを持ちながら学ぶことができます。この本を読むと、いろんな舞台を実際に見たくなる—そんな魔法のような効果もあります。
3. 舞台に興味がなくても、技法として面白い
「演劇には興味がないんだけど…」という方でも大丈夫です。セリフ作り、会話の設計、情報の伝え方といった普遍的な技法が学べるので、あらゆる創作ジャンルに応用できます。
映画監督の本広克行氏(『踊る大捜査線』『サマータイムマシン・ブルース』)も、帯にこんなコメントを寄せています。
「私の人生を変えた1冊です」
プロの映画監督が「人生を変えた」と断言するほどの一冊となっています。
『演劇入門』はこんな人におすすめ
✓脚本家・劇作家志望の方
セリフ作りの基礎から応用まで、実践的な技術が身につきます。
✓小説家・漫画家
キャラクター同士の自然な会話を書きたい方に最適です。
✓映画・ドラマの脚本家
説明的にならずに状況を伝える技術は、映像作品でも必須です。
✓創作初心者の方
入門書として最適。わかりやすい解説で、基礎からしっかり学べます。
その他①:荒木飛呂彦先生が薦める表現のお手本
ジョジョの奇妙な冒険で知られる荒木飛呂彦先生は、著書『荒木飛呂彦の漫画術』の中で「説明しようとしない」ということのお手本として、ヘミングウェイを挙げています。
この本の中では、『殺し屋 The Killers』という短編小説を例に、ヘミングウェイの表現の鮮やかさを解説しています。
こちらもご一読をおすすめします!
われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)
その他②:『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』から学ぶ言外の演出技
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』は、映画脚本家であるブレイク・スナイダー氏が著した売れる映画脚本についての法則をまとめたものです。
この本の中でもスナイダー氏は、わざとらしいセリフとはどういうものかを語っています。
出来の悪い脚本にありがちなもう1つの問題点は、<セリフでプロットを語ってしまう>ことだ。これをやるとド素人の脚本家ってことがバレバレになる。例を挙げてみよう。「僕の姉貴なんだからもちろんわかるだろ!」とか、「もうあの頃とは違うんだ。俺がニューヨーク・ジャイアンツでフルバックのスターだった頃。あの事故が起きるまでは...」 なんていう登場人物のセリフ。
確かに現実ではこんなセリフは聞かないですね。ただ、脚本を作るという作業だとどうしても入り込んでしまう表現なのだそうです。
著書の中ではこの問題への対応についても語られているので、自然な流れの演出に苦労している方は、ぜひご一読ください!
まとめ:リアルなセリフは、技術で作れる
「リアルなセリフ」は、才能やセンスだけで生まれるものではありません。それは、学べる技術であり、磨ける技術です。
『演劇入門』は、その技術を丁寧に、わかりやすく教えてくれる一冊です。「美術館はいいなあ」がなぜダメなのか、そしてどうすれば自然なセリフになるのか—その答えを知りたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
あなたの創作が、この一冊で大きく変わるかもしれません。本広克行監督のように、「人生を変えた一冊」になる可能性を秘めています。