富樫義博先生が「物語に没入できなくなる覚悟」で行った訓練とは?『ヘタッピマンガ研究所R』から学ぶストーリー作成力の鍛え方
「面白いストーリーを作りたいけど、どうやって練習すればいいんだろう…」
漫画や小説を創作している方なら、一度は抱いたことのある悩みではないでしょうか。プロット構築の理論書は数多く存在しますが、「実際にどんな練習をすれば力がつくのか」という具体的な方法論については、なかなか語られることがありません。
今回ご紹介する『ヘタッピマンガ研究所R』は、そんな悩みを抱える創作者にとって、非常に示唆に富んだ一冊となっています。この本には、『HUNTER×HUNTER』の富樫義博先生をはじめとする、ジャンプの人気作家たちの生々しいインタビューが多数収録されています。
特に印象的だったのが、富樫先生が若い頃に実践していたという、ある「覚悟を決めた練習法」についてのエピソードです。
ジャンプ作家たちの創作の裏側が明かされる貴重な一冊
『ヘタッピマンガ研究所R』の特徴は、実際に第一線で活躍する漫画家たちへの詳細なインタビューが収録されていること。
登場するのは、富樫義博先生、河下水希先生、島袋光年先生など、誰もが知る人気作家ばかり。彼らがどのようにストーリーを構築し、どんな試行錯誤を経て今のスタイルにたどり着いたのか。その生々しい創作プロセスを知ることができます。
富樫義博が実践したストーリー練習法
本書の中で特に印象的だったのが、富樫義博先生が語る、若い頃のストーリー作成の練習方法です。
富樫先生の練習法:
短編小説や面白くない映画を見て、「この後の展開を自分だったらどうするか」を徹底的に考える
一見シンプルに思えるこの練習法ですが、富樫先生はこれを実践するにあたって、ある重大な覚悟を決めていたといいます。
それは、「もう今後一切、物語に没入して楽しむことはできないぞ」という覚悟です。
物語を常に分析的な視点で見てしまうということは、純粋に作品を楽しむという体験を手放すことを意味します。映画を見ても小説を読んでも、「ここでこういう展開にしたのはなぜだろう」「自分だったらこうする」と考えてしまう。エンターテインメントを消費する側から、常に創り手の視点で物事を見る側へと、完全にスタンスが変わってしまうのです。
この「一視聴者としての純粋な楽しみを捨てる」という覚悟。それでもなお、創作者として成長するためにこの練習を選んだという富樫先生の姿勢には、深い尊敬の念を抱かずにはいられません。
💡補足:『HUNTER×HUNTER』の着想秘話も
ちなみに、本書には『HUNTER×HUNTER』という作品の着想がどこから生まれたのかというエピソードも収録されています。あの名作がどのようにして形になっていったのか、そのルーツを知ることができるのも、ファンにとっては嬉しいポイントだと思います。
『SKET DANCE』『彼方のアストラ』篠原健太先生が語る「アウトプット」の重要性
富樫先生の練習法から見えてくるのは、「インプットしたものをどう活かすか」という視点の重要性です。そして、この点についてさらに示唆的な発言をしているのが、『SKET DANCE』の篠原健太先生です。
篠原先生は、少年ジャンプ+の企画「ヒット作のツメアカください!」の中で、「今日はマンガのために映画を観ました」という人に対して、こんな風に語っています。
「それは『○○しててネームを描いてませんでした』というのと同じ」
一見すると厳しい言葉に聞こえるかもしれませんが、これは創作における本質を突いた指摘かと思います。どれだけ優れた作品を見ても、読んでも、それを自分の創作に落とし込まなければ、創作者としての成長にはつながらないということ。
富樫先生の「見た作品の続きを自分で考える」という練習法も、まさにこの「インプットをアウトプットに変える」プロセスを重視したものだといえます。
インプットも大切、でもやっぱりアウトプットが鍵
富樫先生と篠原先生、両者のエピソードから浮かび上がってくるのは、「アウトプットこそが創作力を鍛える」という共通の教訓です。
もちろん、インプットは欠かせません。優れた作品に触れること、理論を学ぶこと、そういった土台があってこその創作活動です。しかし、それに加えて、実際に手を動かし、自分なりの展開を考え、描いてみることで初めて、インプットした知識が血肉となっていきます。
アウトプット重視の実践例
- ✓見た映画の「もし自分が監督なら」という続きを考えてみる(富樫方式)
- ✓学んだ理論を実際の短編プロットに落とし込んでみる
- ✓インプットした日は必ず、その学びを活かした1ページでもネームを描く
- ✓好きな作品の分析を文章化し、自分の作品に応用できる要素を抽出する
創作の上達には、この「インプット→アウトプット」のサイクルを回し続けることが不可欠なのだと思います。
ただし、忘れてはいけない大切なこと
ここまで富樫先生の練習法を紹介してきましたが、実は『ヘタッピマンガ研究所R』の中で、富樫先生自身がとても重要なことを述べています。
「あくまで僕はこうしてきたってだけの話であって、結局他の人には当てはまらなかったりするんですよ」
これは非常に誠実で、そして本質的な言葉かと思います。どんなに優れた練習法も、万人に効果があるわけではありません。富樫先生にとって「物語に没入できなくなる覚悟」が必要な練習法も、別の人にとっては逆効果になるかもしれない。
たとえば、純粋に物語を楽しむ感性を保ったまま創作活動を続けることで、読者目線を忘れずに作品を作れる人もいるでしょう。あるいは、理論よりも感覚を大切にすることで、独自性の高い作品を生み出せる人もいるはずです。
結局のところ、「自分に合ったやり方を模索し続けること」こそが、創作者として成長し続けるための最も大切な姿勢なのかもしれません。
自分に合った方法を見つけるために
『ヘタッピマンガ研究所R』には、富樫先生以外にも多数の作家のインタビューが収録されています。それぞれが異なるアプローチ、異なる創作哲学を持っている。
複数のプロの方法論に触れることで、「自分にはこれが合いそうだ」「これは取り入れられそうだ」という発見があるはずです。本書は、そんな自分なりの創作スタイルを見つけるための、貴重な羅針盤となってくれると思います。
まとめ:インプットとアウトプット、そして自分なりの方法論
本記事のまとめとしては、以下の3点となります。
- 1.
覚悟を持った練習の重要性
富樫先生のように、時には何かを犠牲にする覚悟で取り組むことで、創作力は飛躍的に向上する
- 2.
アウトプット中心の学習
インプットも大切だが、それを自分の作品に落とし込むアウトプットこそが成長の鍵
- 3.
自分に合った方法の模索
万人に効く方法はない。様々なプロの方法論を参考にしながら、自分なりのスタイルを見つけることが大切
創作活動に行き詰まりを感じている方、次のステップに進みたいと考えている方にとって、本書は確実に新たな視点をもたらしてくれるはずです。
プロの創作者たちがどんな思考プロセスで作品を生み出しているのか。その一端を垣間見ることで、あなた自身の創作活動にも新たな可能性が開けるかもしれません。