人気作を真似しても面白い漫画は描けない?—9人の鬼才が教える「本質を学ぶ」創作術
「今回の応募作も、○○の影響を感じさせる作品が目立ちました」
新人賞の選考総評を読むと、このような言葉を目にすることがあります。実際に『ルックバック(2021年 藤本タツキ著)』が話題になった後、その影響を受けたであろう応募作が増加したらしいです。
『チェンソーマン』が大ヒットすればチェンソーマン風の作品が、『推しの子』が流行れば推しの子風の作品が…世間で話題になる作品が出るたびに、その空気感を受け継いだような応募作がぐんと増える傾向がある。
世間で何かがヒットするたびに、その作風に似た物語が次々と生み出されていく。けれど、ヒット作の背中を追いかけることが、果たして正解なのでしょうか。「今、流行っているもの」をなぞった先から、次の時代を切り拓くような新しい名作が生まれるのかどうか、今回の記事で考えてみたいと思います。
真似すべきは「形」ではなく「心」
人気作を研究すること自体は悪いことではありません。むしろ、プロの技術を学ぶ上で非常に有効な方法です。
しかし、多くの創作者が陥りがちな罠もあると思います。それは、作品の表面的な要素—コマ割り、演出、キャラクターデザイン—だけを真似してしまうことです。
大事なのは、人気作そのものを分析することではなく、その人気作を生み出した作者の「思考」や「視点」を理解することです。
「真似をするときには、その形ではなく、その心を真似するのが良い」
— 渋沢栄一(新1万円札の肖像)
新1万円札の肖像に選ばれた実業家・渋沢栄一も、まさにこの本質を突いた名言を残しています。500以上の企業設立に関わった渋沢の成功の秘訣も、表面的な模倣ではなく、本質を学ぶことにあったのです。
では、作者の「心」はどこで学べるのか?
それは、その作者が影響を受けた作品、好きな作品を積極的に見ることによって学ぶことができます。つまり、尊敬する作者がアウトプットしたものではなく、その作者が若い頃にインプットしたもの。
なぜなら、それこそがその作家を形づくっているものだからです。
藤本タツキ先生が『チェンソーマン』を描けたのは、単に漫画の技術が高いからではありません。映画、音楽、文学—さまざまなカルチャーから吸収したものが、あの独特の世界観を形作っているのです。
つまり、人気作そのものではなく、それを生み出した作者の「土台」を自分の中にも取り入れることが重要ということです。
創作力を高めるために
- ✓好きな作者がインタビューで挙げている作品をチェックする
- ✓その作者の「見方」「感じ方」を理解する
- ✓自分なりの解釈と組み合わせて、オリジナリティを生み出す
9人の鬼才が明かす「映画の見方」と「創作の土台」
作家のインプット情報として、参考になる書籍を1冊ご紹介します。 『漫画家、映画を語る。—9人の鬼才が明かす創作の秘密』という本です。
この本では、第一線で活躍する9人の漫画家たちが、自分の創作に影響を与えた映画について語っています。 彼らがどんな映画を観て、何を感じ、それをどう作品に昇華させてきたのか。つまり、鬼才たちの「インプットの中身」がそのまま詰まっている一冊です。
前章で触れたように、人気作そのものを真似るのではなく、その作者を形づくった「土台」を知ることが大切です。 この本はまさに、漫画家たちの創作の土台である映画体験を、本人の言葉で追体験できる貴重な資料といえます。
漫画という枠を超えて、映画をどう「読み解く」のか—その視点の違いを知るだけでも、あなたの作品づくりに新しい気づきをもたらしてくれるはずです。
漫画家、映画を語る。—9人の鬼才が明かす創作の秘密
こんな豪華な顔ぶれが登場
松本 零士
『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』
浅田 弘幸
『I‘ll』『テガミバチ』
諫山 創
『進撃の巨人』
その他6名の鬼才たち
それぞれが独自の視点を披露
この本を読むことで得られる3つのこと
プロの「見る目」に触れられる
漫画家たちがどのような視点で映画を観ているのか、その思考プロセスを覗くことができます。同じ作品でも、見る人によってこんなにも捉え方が違うのかと、新鮮な発見があるかもしれません。
自分だけの「引き出し」が増える
9人それぞれが挙げる映画を追いかけていくと、自分の知らなかった作品との出会いが生まれます。「あの作家はこの映画からこういう影響を受けたのか」という発見が、創作のヒントにつながるはずです。
「真似る」から「学ぶ」へのきっかけになる
人気作の「形」をなぞるだけでなく、その奥にある「心」に目を向けるきっかけになるかもしれません。
こんな創作者におすすめ
人気作の影響を受けすぎて、自分らしさが出せないと感じている
新人賞に応募しているが、いつも「既視感がある」と評価される
プロの漫画家がどのように作品作りをしているのか知りたい
創作の引き出しを増やしたいが、何から手をつければいいか分からない
映画を観るのは好きだが、創作にどう活かせばいいか分からない
この本の活用法—3つのステップ
STEP 1: まずは読んで、共感する作家を見つける
9人の中から、自分の創作スタイルや悩みに近い作家を見つけてみましょう。その作家が語る内容は、あなたにとって特に大きなヒントになるはずです。
STEP 2: 紹介されている映画を実際に観る
本を読んだだけで終わらせず、実際にその映画を観てみましょう。「この作家はこの映画のここに注目したのか」という視点で観ると、全く違う景色が見えてくると思います。
STEP 3: 自分なりの解釈を創作に落とし込む
作家の視点を参考にしながらも、あなた自身が感じたこと、考えたことを大切にしましょう。そこにこそ、あなただけのオリジナリティが生まれるはずです。
表面を真似るのではなく、本質を学ぶ
世の中には、創作に関する「How to」があふれています。「こうすれば面白くなる」「この構成を使えば売れる」といったノウハウも散見されます。
しかし、本当に必要なのは、小手先のテクニックではなく、作家としての「視点」や「感性」を磨くことです。
『漫画家、映画を語る。』は、まさにその「本質」を学べる貴重な一冊だと思います。興味を持たれた方は、ぜひご一読ください。